「何度も言ってるのに、どうしてできないの!」
子どもを育てていると、そんな風に感じたことがあるのは、一度や二度ではないことでしょう。毎日毎日嫌になるくらい言っているのに、できない! それは、親子とは言え、お母さんと子どもでは、情報処理の仕方が違うからなのです。
❀無意識に脳が行っている情報の取捨選択
人は、さまざまな情報を視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という、いわゆる五感から得ています。それらの情報を自分の中に取り込み、処理・判断を行い、行動として表現しているのです。ただし、人は触れている情報すべてを取り込んでいるわけではなく、入力の段階で取り込むべき情報をフィルターにかけて取捨選択しているのです。見えるもの、聞こえるもの、気温や風(空気)・服が肌に触れる感触・歩くときの地面を踏む感触などの感じるもの、それらすべてを同じボリュームで取り入れていたら、すぐにパンクしてしまうため、必要な情報のボリュームを上げ、必要がない情報のボリュームは下げるということをできるスキルを人の脳は生まれつき持っているのです。
たとえば、満員電車などの人込みの中で、たくさんの人たちが話をしていたり電車や足音などさまざまな音がしているにもかかわらず、一緒にいる家族や友達の声を聞き取ることができますよね。これは、必要のない周囲の人の声や足音などのボリュームを下げ、必要としている家族や友達の声のボリュームを上げることを脳が無意識に行ってくれているのです。また、街中はたくさんの看板で溢れていますが、目的のお店の看板ははっきりと覚えていても、周囲のお店の看板は色や形などなんとなく雰囲気は覚えていても、書かれていた内容までははっきりとは思い出せないというようなこともあるかと思います。これも、目からの情報の入力のボリュームを上げたり下げたりしながら、必要な情報のみをしっかりと入力できるように脳が働いているのです。

世の中の多くの情報
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(個人のフィルターで情報の取捨選択)
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一部の情報のみを入力
❀同じ情報に触れていても、入力している情報はさまざま
先ほど五感から情報を得ていると言いましたが、視覚と聴覚においては多くの情報の要素として含まれますが、触覚・味覚・嗅覚に関しては情報の種類が限定される場合があるため、3つをまとめて感覚として、ここからはお話していきます。つまり、情報の入力方法としては、見えるもの(視覚)・聞こえるもの(聴覚)・感じるもの(感覚〔触覚・味覚・嗅覚〕)の3つで考えていきましょう。この3つにおいても、人は同等のボリュームで取り入れているとは限らないのです。先ほどまでの話は世の中に溢れている情報の入力に関する全般的なことになりますが、今度は個人の中での得意・不得意の話になります。
同じ情報に触れていたとしても、視覚からの情報が得意な人もいれば、聴覚からの情報が得意な人、感覚からの情報が得意な人など、どういう方法でより多くの情報をキャッチしているのかは人によって異なるのです。もちろん、視覚も聴覚も感覚もほとんど変わらないレベルでバランスよく情報を入力している人もいます。一方で、パターン5からパターン7のように、典型的に視覚・聴覚・感覚のどれかが得意という人もいます。図には現わしていませんが、もちろん視覚と聴覚の2つは同じくらいのレベルで情報を入力しているが、感覚だけが少し弱いなど、どれか1つだけが弱いというパターンの入力方法の方もいます(パターン2からパターン4)。これは、どれが良い・悪いではなく、人の得意・不得意なのです。親子だから得意なパターンが同じとは限りません。親は聴覚が得意だけれど子どもは視覚が得意という場合があれば、親は視覚が得意だけれど子どもは感覚が得意という場合もあります。得意なパターンが同じ親子もいれば、全くパターンが異なる親子もいるのです。

同じ情報に触れていても、
入力している情報は人によって異なる!
❀得意な入力パターンの違いにより、使っている言葉も異なる
たとえば、視覚からの入力が得意な人は、周囲の人に伝えるときには「見る/見えない」「イメージする」などの表現を使うことが多くなります。聴覚からの入力が得意な人は「聞こえる/聞こえない」「言う・話す」などの表現を使って伝える傾向があります。つまり、自分の得意な入力パターンを使って、相手にも伝えようとするのです。相手の得意とする入力パターンが自分と同じ場合には、相手にとって非常に伝わりやすい方法で伝えられていることになります。しかし、相手の得意とする入力パターンが違う場合には、相手は非常に理解しにくい伝えられ方をしていることになるのです。これは、日常の中でのコミュニケーションにおいて、たくさん起きていることであり、理解の違いはこのような情報入力のパターンの違いから生じてきているのです。友達同士や仕事関係の人との間など大人同士の間では、このような理論的なことを知らなかったとしても、自然とどうしたら相手に伝わりやすいかな、どうしたら自分の言いたいことを相手に分かってもらえるだろうかということを考え、伝え方を工夫していることかと思います。
入力している情報の種類により、
その人が使用している言葉も異なる!
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相手が使用している表現を用いることで、
相手が受け取りやすい情報になる!
❀大人同士だとできる相手に合わせたコミュニケーションが、自分の子ども相手だとできない
職場や友達とは相手に合わせてコミュニケーションができているのに、自分の子ども相手だとできない! 実はそんな親御さんたちは、とても多いのです! 親だって一人の人間ですからね。すべての場面で完璧にできるわけではありません。なぜ大人同士だと自然にできている「相手に合わせたコミュニケーション」が、自分の子ども相手だとできないのでしょうか? おそらくきょうだいの子ども(姪・甥)や友達の子どもだと、大人同士のコミュニケーション同様に、その子に合わせたコミュニケーションが取れているのではないかと思います。自分の子ども限定でできなくなってしまうのです。
「相手に合わせたコミュニケーション」が自然とできているときにはイライラすることもほとんどありませんが、それができなくなったときに人はイライラしやすくなるのです。そのような状態が自分の子ども限定で生じるのには、無意識のどこかで「自分の子どもは、親の言うことを聞くもの」という思い込みがあるからなのです。この思い込みは、多くの大人が無意識的に持ってしまうもので、決して悪いことではありません。ただ、イライラして、一方的に子どもを怒る状況に陥りやすくはなるので、まずは「子どもは言うことを聞かないもの」ということを前提として考えてみましょう。そして、自分自身の得意な入力パターンは視覚・聴覚・感覚どれだろうか? 子どもはどの入力パターンが得意なのだろうか? と親子それぞれのパターンを考えてみましょう。きょうだいがいる場合には、親子の得意な入力パターンが異なる通り、きょうだいでも入力パターンは違う場合がありますので、一人ずつで考えてみましょう。
前提を「子どもは言うことを聞かないもの」と考えよう!
親子とは言え、得意な情報処理パターンは異なる。
子どもが得意なパターンの情報で伝える。
⇒ 指示が伝わりやすくなる!