「子どもは、ほめて育てる」
このようなことを耳にするのは、一度や二度ではないことでしょう。その一方で、「ほめる子育ては危険」 このようなことを聞いたことがある人もいるのではないでしょう。この2つは、真逆のことを言っていますね。この2つは、どちらも嘘であり、どちらも正しいということが、本当のところです。つまり、ほめることは大切だけど、ほめ方を間違えれば危険ということなのです。では、なぜほめることは必要なのでしょうか。
❀ほめることは、なぜ必要か?
ここでは分かりやすくするために、『ほめる』と表現していますが、実はこれは『認める』ということなのです。『ほめる』とは、「人のしたこと、行いをすぐれて評価して、そのことを言う。たたえる。」ということです。ただほめればよい、出来ていること・すぐれていることを評価すればよいというわけではないのです。ほめるということは、あくまで親が行う行動の一つで、子どもにとってはほめられることが大切なのではなく、認められることが大切なのです。
人には、生まれもった承認欲求というものがあります。人は本能的に「人から認められたい」、「受け入れてもらいたい」、「尊重されたい」という欲求をもっているのです。つまり、この欲求を満たしていくことが、「将来、自分は何をしたいのか?」、「自分はどうありたいか?」など将来に希望を持ち、自分の行動やあり方などを主体的に考えることができる大人への成長につながるのです。
子どものそのような欲求を満たすための一つの手段に「ほめる」ということがあります。ただ、「ほめる」だけではなく、いかに「認められている」と子どもが感じることができるのかという関わりを行い、子どもの「認められる経験」を増やしていくことが大切なのです。
『ほめる』 = 『認める』
認められる経験
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自分の行動やあり方などを主体的に考えることができる大人へ
❀『ほめる』ための5つの方法
先述の通り、「ほめる」だけではなく、「認められている」と子どもが感じることができる関わりが大切なのです。その「認められている」ということを子どもに伝える関わり方のレパートリーを増やしていくことが大切です。
大人でも、同じことを言われても、受け入れられるときもあれば、イラっとすることもあるなど、その時の気分によって受け取り方が変わるという経験があると思います。子どもは、大人よりも当然ながら発達が未熟ですので、感情や行動のコントロールが十分ではありません。同じ関わり方ばかりでは、親の思い通りに伝わるときもあれば、「何でそう取るの?」というひねくれた取り方をするなど、子どもの受け取り方はその時の気分によって変わってきます。その時の直前の状況によって、「今はこれでやってみよう!」、「今はこれかな~?」と関わり方を変えることが必要なのです。そのように柔軟に対応するために、親がさまざまなレパートリーを持ち合わせておくことが大切なのです。
子どもに『認める』と伝えるための方法は、①ほめる、②お礼を伝える、③親のうれしい気持ちを伝える、③子どもの好ましい行動を言葉にする、⑤励ますの5つがあります。一つずつ順番に考えていきましょう。

①ほめる
これは、できていることを評価して、「すごいね!」「えらいね!」と伝えることです。ただ、これには注意点が一つあります。必ず行動とセットにして伝えるということです。「すごいね!」「えらいね!」だけでは、子どもにとって何がすごいのかが伝わりません。「すごいね!」「えらいね!」だけで伝えることを続けていると、「自分はすごいんだ!」と人格そのものがすごいという認識になり、土台がない状態になります。ここが、「ほめる子育ては危険」と言われる所以です。「すごい!」「えらい!」と言われても、「何が」という土台がなければ、左の木のようにとても不安定な状態です。ちょっとしたつまずきで大きな挫折となってしまい、ポキッと折れてしまいます。一方で、「何が」という行動もセットで伝えていることにより、どういう理由で認められているのかが明確なので、ちょっとしたつまずきにぶつかっても、「じゃあ、こうしてみようかな?」と次の行動を考え、次につなげていくことができるのです。
ほめるときは、「行動+ほめ言葉」で伝える!
ちょっとしたつまずき(失敗)に立ち向かう力になる!
②お礼を伝える
「ありがとう」とお礼を伝えることですね。近い距離間の人ほど、伝えることを、ついつい疎かにしやすいものです。でも、この「ありがとう」というのは、「あなたのその行動を認めます。嬉しく思っています。」と伝える言葉なのです。家の中に「ありがとう」が飛び交うと、とても暖かい家庭の雰囲気になりそうですね。小さい頃から「ありがとう」と言われる機会が多いと、子どもも周りの人に「ありがとう」をたくさん言える人になっていきます。また、思春期以降など年齢があがると、照れからほめられと反抗的な言動を返してくる子どももいます。この「ありがとう」は、反抗の余地が限りなく少ないため、無視や素っ気ない態度で素直に受け取ることはないかもしれませんが、反抗的な言動は返ってきにくいので、親の「認めている」気持ちの伝わる割合が高くなります。
親からの「ありがとう」が多い
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周りの人にたくさん「ありがとう」を伝えられる子どもに!
思春期以降は、反抗の余地をなくし、『認める』ことを伝えることができる!
③親のうれしい気持ちを伝える
「ありがとう」に近いものにはなりますが、「~してくれてうれしい」「~してくれて助かった」と親のうれしい気持ちを言葉にして伝えることです。「認めている」ことを伝えるので、うれしい、助かったなどのポジティブな感情に限ります。悲しみや怒りなどのネガティブな感情になると、それは子どもの行動を「認めていない」ことになるので、ここではあくまでポジティブな感情です。これも「ありがとう」と同じで、近い距離間の人ほど、疎かにしやすいものですので、どの程度、ポジティブな感情を伝えることができているか振り返ってみてくださいね。また、これも反抗の余地が限りなく少ないので、思春期以降の子どもには「ほめる」ことよりも有効になります。
親のポジティブな感情を素直に伝えよう!
反抗の余地が限りなく少ない!
(=思春期以降は特に有効)
④子どもの好ましい行動を言葉にする
これは、「服、着替え終わったね!」、「宿題してるんだね!」、「ゴミ捨ててくれたんだね!」などと、子どもが行った好ましい行動を事実として言葉にすることです。①~③は、実は親の気持ちがその通りでなければ、言うことも難しかったり、言っても表情や態度から子どもは「認められている」と感じられなかったりします。たとえば、何回も言ってようやく子どもが動いたことに対して、動いたことはほめられるけど、今の親の気持ちとしてはイライラしていてほめられる気持ちではないということも多いと思います。そのような時には、無理にほめ言葉やお礼を言う必要はありません。ただ、子どもが行っている好ましい行動のみを言葉にして伝えてください。伝える際に表情や態度に注意は必要ですが、それは、この後の『ほめる』ときの5つのポイントで説明します。
ほめるべきなのだろうけど、親の気持ちが伴わない…
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子どもの行っている好ましい行動のみを言葉にする
⑤励ます
「がんばれ!」などと励ますことです。これは多用すると、子どものモチベーションを下げることになるので、使い方には注意が必要です。行動を始めるタイミングか、終わる直前が最も使いやすいポイントです。「がんばって、~しようね!」「あともう少しだね!がんばれ!」という言い方ですね。子どもによっては、「がんばれ!」と言われることが必要以上にプレッシャーになる場合もありますので、使うかどうか、使うなら頻度はどの程度なら大丈夫かなど、難易度は最も高いものです。最後の一押しというような最終手段で使うようなイメージで持っておくとよいかもしれません。
「がんばれ」の多用は、モチベーションを下げることも!
ベストなタイミングは、行動を始めるときか、あと少しで終わるというとき!
ほめる = 「認めている」ことを伝える
ほめる以外にも、
「ありがとう」をいっぱい伝えよう!
親のポジティブな感情を素直に伝えよう!
好ましい行動を言葉にするだけでもOK!
行動の始まり・終わりでは「がんばれ」を入れてみることも!